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Text File  |  1994-11-16  |  2KB  |  34 lines

  1. 533/533   WST00364  和田 光平         貧乏暇なし(江戸)
  2. ( 8)   94/04/12 08:16
  3.  
  4.   貧乏暇なし(江戸)
  5.  
  6.  世の中の殆どの人が貧乏であったころ,下町の長屋の連中は朝早く起きて日が暮れて
  7. 眠るまで,働き通しでした.ちょっとでも時間があれば,おかみさんは内職をして稼い
  8. でいました.時間はお金に変えるべきものでした. だからいつでも暇がない. 
  9.  こんなに働いているのに,どうして我が家は貧乏なんだろうと,ため息をついていた
  10. 江戸の人々は,貧乏神の存在を信じていたようです.
  11.  小柄で渋団扇を持っていて,貧乏の火をあおるのが貧乏神です.住居は板間の下とか
  12. 天井裏です.好物は焼き味噌の香りです.寒いのは平気ですが,暑がりのようです.
  13.  第一の放逐手段は,部屋一杯に焼き味噌の香りを充満させ,次々と部屋を回った後
  14. この焼き味噌を家の外へ持ち出し,川に捨てる方法です.大阪の古い商家では明治の頃
  15. まで毎月行われていたようです.
  16.  第二の放逐手段は,囲炉裏に炭を山ほど入れ,縁がこげるほど火を燃やす方法です.
  17. あつい,あつい,もうこんなところには住んでおれん.そう言って貧乏神は逃げて行き
  18. ます.その際,彼らは玄関口に,お米や魚を沢山残して行って贅沢なお正月が迎えられ
  19. る材料を提供してくれます.
  20.  
  21.  江戸の俳人与謝蕪村は, 画家が本職でした. 奥の細道の屏風を何枚も書いているのは
  22. 生活のためでした. 「小説与謝蕪村」には, 彼の貧乏ぶりが描かれていましたが, 南画
  23. だけで生活するのは大変な苦労だったようです. 
  24.  池大雅との競作「十便十宜図」の注文があった時,謝春星(蕪村の画家としての名)
  25. は,心に期すものがあったようです.南画の世界での第一人者池大雅が,十便を担当し
  26. たのに対抗して,十宜を書いた春星は,一世一代の力作を投入しました.
  27.  しかし世間の評判は池大雅の十便図に集中し,十宜図は,それほどの評判を呼べな
  28. かったようです.正直に言って,今見ても池大雅の方が優れていると私は思います.
  29.  晩年の名作「夜色桜台図」の雪景色で蕪村は画家としても超一流の名を残すことにな
  30. ります.絵もヒットせず,俳諧も儲からないといった貧乏生活の中で,あの雅びとも
  31. 言える,芸術の数々を生み出したパワーは,貧乏暇なしの切迫感だったのでしょうか.
  32.  
  33.                             東海支社)和田 光平
  34.